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「不安の抗弁権(ふあんのこうべんけん)」とは、一言で言うと、
「相手の経営状態が急激に悪化するなど、約束の支払い(給付)をしてもらえない可能性が高いときに、自分の義務を一時的に拒むことができる権利」のことです。
これは民法に直接「不安の抗弁権」という名前の条文があるわけではなく、「同時履行の抗弁権(民法533条)」の延長線上にある考え方として、裁判(判例)を通じて認められてきたルールです。
1. どんなときに使えるのか?(成立要件)
通常、契約で「自分の方が先に支払う(先履行義務)」と決めている場合、相手がどうあれ先に払わなければなりません。
しかし、以下のような「不安」が客観的に明らかな場合は、支払いをストップできます。
- 相手の信用不安: 相手が倒産しそう、あるいは多額の不渡りを出した。
- 履行が著しく困難: 相手が商品を他人に売ってしまい、自分に渡すものがなくなった。
- 財産の減少: 相手の財産が差し押さえられ、代金を回収できる見込みがなくなった。
2. 同時履行の抗弁権との違い
ここが理解のポイントです。
- 同時履行の抗弁権: 「相手が今やってくれないから、私も今やらない」という対等な関係。
- 不安の抗弁権: 「本当は私が先にやる約束だけど、相手が将来やってくれないのが見え見えだから、怖くて今はできない」という先履行義務者を守るための権利。
3. 行使するとどうなる?
この権利を正当に行使している間は、自分の支払いを遅らせても「債務不履行(遅延)」にはなりません。
相手が「ちゃんと支払うための担保(保証人など)」を立ててくれるか、あるいは相手の経営状態が回復して不安が解消されるまで、自分の義務をストップさせ続けることができます。
4. 2020年民法改正との関係
実は、2020年の改正で「不安の抗弁権」に近い内容が一部条文化されました。
- 履行拒絶権(第533条関連): 相手方が履行を完了するまで、自分の履行を拒める範囲が明確化されました。
- 無催告解除(第542条1項2号): 相手が「履行不能になることが明らか」であれば、催告なしに解除できる道も広がりました。
現在では、単に支払いを「拒む(不安の抗弁権)」だけでなく、状況がひどければ「契約自体を解除する」という選択肢も取りやすくなっています。
非常に強力な権利ですが、「なんとなく怪しい」という主観的な不安だけでは認められません。
実際に使う場合は、相手の決算書や差し押さえの事実など、「誰が見てもこれは危ない」という証拠が必要になります。
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